【alicセミナー】「海外の持続可能な畜産における取組」
最終更新日:2020年5月13日
alicの調査情報部では、最新の農畜産物の需給状況などを把握するため、海外調査を実施しています。令和2年2月5日(水)に開催したalicセミナーにおいて、海外の持続可能な畜産における取組について、4か国の調査結果を報告しましたのでその概要を紹介します。
〇「米国の肉用牛・牛肉産業における持続可能性(サステナビリティ)〜持続可能な牛肉のための円卓会議(USRSB)における取組状況〜」 藤原 琢也
米国では肉用牛・牛肉産業におけるサステナビリティへの関心が高まりつつあります。2015年には生産者から小売業者までの牛肉のサプライチェーン全体が参画する「持続可能な牛肉のための円卓会議(USRSB)」が 設立されました。
USRSBは、優先度の高い6つの重要指標:(1)水資源、(2)土地資源、(3)大気・温室効果ガス、(4)効率化・収穫(算出)、(5)アニマルウェルフェア(前出、4頁参照)、(6)従業員の安全・健康 に関し、部門ごとに測定基準を設定し、サプライチェーン全体でサステナビリティへの取組を実施しています(図1)。
しかし、生産部門の各基準には政府の規制のような当然遵守しなければならないものは含まれず、生産者の自主性が尊重され、義務付けや取組の検証などは行われていません。
始まったばかりの取組であり、今後の動向が注目されます。
〇「オランダ養豚における家畜排せつ物処理の取組〜持続可能な養豚のために〜」 前田 絵梨
オランダの国土は九州ほどの面積ですが、家畜飼養頭数が多いため、飼養密度はEUで最も高く、EU平均の約5倍となっています。したがって国土面積当たりの家畜排せつ物の発生量も多く、環境保護の観点から家畜排せつ物処理は注意を払うべき事柄となっています。また、EUの主要豚肉生産国と比べて高い豚排せつ物処理コストは課題の一つとなっています(図2)。
現在、オランダ政府は循環型農業への移行を進めており、この数十年、環境上の観点から否定的な評価を受けてきた家畜排せつ物は「農地を豊かにし化学肥料との置き換えができる有用な物質」と認識され始めています。また、生産者の団体であるオランダ養豚協会は排せつ物の付加価値化を進めるために、排せつ物の加工を行う6〜7社の地域企業を設立するサポートを行っています。こうした政府などの新たな取組について、今後の展開が注目されます。
〇「豪州肉用牛産業における環境対策について〜持続可能性の確保に向けて〜」 井田 俊二
豪州肉用牛産業は、生産量の71%が輸出向けの輸出志向型であり、農業生産額の18%を占める主要産業です。国土の54%で牧畜が行われ、牛飼養頭数も増加傾向で推移しています。肉用牛業界では、2017年4月に「牛肉持続可能性に関する枠組み」という業界の自主的な取組が発足しました。ここでは業界が取り組むべきテーマ(環境への影響の最小化を図る「環境への責務」など)や課題を定め、指標データを収集して報告することで、業界として環境対策の統一的な立場や方向性を明示しようとしています。
また、生産段階でも、多様な生産環境のもと、それぞれの地域で放牧地の管理や土壌管理、河川の水質汚濁防止といった環境に対応した様々な独自の取組が行われています(写真1)。
〇「韓国の家畜排せつ物処理の実態」 小林 智也
韓国は、畜産環境をめぐって家畜排せつ物の処理や悪臭防止など日本と似た課題を抱えていますが、畜産環境に関する対策で日本と異なる点の一つに、2013年より導入された畜産業の許可制度があります。これにより、畜産農家は基準に適合した畜舎において家畜を飼養することが必要となり、2018年にはさらに許可要件の強化や畜産環境に関する条項が新設されました。
また、韓国の家畜排せつ物処理の特徴として共同資源化施設および液肥流通センターが挙げられます(写真2)。家畜排せつ物を資源化し、安定的に処理するため、地域別に発生する家畜排せつ物を収集、堆肥・液肥に資源化する中間処理団体に当たる共同資源化施設の設立などの事業を国や地域主導で推進しています。2018年時点で106カ所の共同資源化施設がありますが、運営が不安定な施設も多くあることから、その持続可能性には不安が残ります。
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農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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