【外部寄稿】持続可能な農業の実現に貢献するGAP 一般財団法人日本GAP協会事務局長 荻野 宏
最終更新日:2020年5月13日
「GAP」とは
GAP とは、Good Agricultural Practice の略語で、直訳すれば「よい農業のやり方」です。農林水産省は「農業生産工程管理」と説明しています。農薬や肥料の使い方、土や水などの生産に不可欠な要素、それに環境保全の観点や、農場で働く人の農作業事故の防止、加えて畜産では家畜衛生の確保とアニマルウェルフェア(
前出頁参照)への配慮など、農業生産に関する多くの工程を体系化された管理点に沿って実施し、それを記録、点検することで、安全で信頼できる農産物の生産と持続可能な農業を実現するというのがGAPの基本的な考え方です。昨今、GAPに対する注目が急速に高まるとともに、GAPの取組および認証取得の拡大が農政においても重要な政策課題としてクローズアップされています。
GAP認証の必要性
農産物の生産者にとっては残留農薬違反や病原微生物汚染のリスクを少しでも低くすること、そして、環境の保全や自らの労働安全にもプラスとなる農場運営を行うことが重要な課題です。また、農産物取引を行う企業が最も重視することは、食品の安全性をどのように確保し、社会から信頼される調達を実現するかということです。そのような中で、安定して安全な農産物を生産・調達する仕組みとしてGAPの活用が広がっています。GAPに基づいて生産され、かつ第三者の認証機関の審査を受け、認証を得ている農産物であれば、企業、そして消費者は納得して購入することができるからです。
SDGs、オリンピックとGAP
GAPは食品の安全性を確保する取組であると同時に、農業の持続可能性にも貢献する取組でもあることから、SDGs(持続可能な開発目標※)の多数の目標と関連があります。したがってGAPを実践することや、GAPにより生産された農産物を積極的に購入することはSDGsへの貢献につながるということができます。GAPの取組とSDGsの関係は別表をご覧下さい。GAPで求める取組が多数のSDGs目標と関連していることを見て頂けると思います。
また、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会における「持続可能性に配慮した農産物の調達基準」においては、(1)食材の安全性の確保、(2)環境保全に配慮した農業生産活動の確保、(3)作業者の労働安全の確保、の3点に対して適切な措置が講じられていることが要件とされ、この要件を満たすものとして、具体的にGAP認証が挙げられています。それは、これらのGAPの持つ内容が持続可能性をテーマとした調達基準の考え方を満たしているからです。
(※)2015年9月の国連サミットで採決された、経済・社会・環境の3つの側面のバランスがとれた社会を目指す世界共通の目標。
日本国内で普及するGAP認証制度について
日本国内で普及する第三者認証の仕組みを持つGAP認証制度は、GLOBALG.A.P(以下「グローバルGAP」)、ASIAGAP、JGAPの主に3つがあります。それぞれが東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会における農産物及び畜産物の調達基準を満たすGAP認証制度として位置づけられています。他には都道府県や企業等が独自に運営するGAPもあります。
グローバルGAPはドイツに本部があり、ヨーロッパの大手小売業の調達基準として普及してきていることから、ヨーロッパ域内および域外からヨーロッパへの輸出を行う農場を中心に、世界では約20万、日本では702農場(2019年3月末時点)が認証を取得しています。認証数は青果物が大部分ですが、他にも穀物、茶、花卉(かき)、家畜、水産養殖などを幅広くカバーしています。
ASIAGAP(青果物、穀物、茶)およびJGAP(青果物、穀物、茶、家畜・畜産物)は、日本GAP協会が運営する日本発のGAP認証制度です。JGAPは、世界に通用する日本の本格的な第三者認証制度として2006年から運用が始められており、ASIAGAPは、輸出も視野に置いてJGAPにグローバル企業からの要求内容を付加する内容で2016年から運用されています。2019年3月末時点における認証農場数は、JGAPが2、863農場、ASIAGAPが1、872農場に達しており、順調に増加しています。
「JGAP家畜・畜産物」については、畜産分野においても食品安全や持続可能性等の取組について客観的な第三者認証によりバイヤーや消費者の信頼を高めたいとのニーズが日本国内にも高まっていることに応える認証制度として、2017年から新たに運用を開始したものです。乳用牛、肉用牛、豚、採卵鶏、肉用鶏を対象に、認証数は既に130件を上回っており、昨年からは団体認証もスタートしました。
おわりに
GAP認証制度は、持続可能な農業の実現に貢献するものであることから、その普及が世界の持続的な農業の発展と、食品安全の向上につながるものと期待されるところです。
(筆者プロフィール)
昭和63年4月 農林水産省食糧庁企画課入省後、
畜産局牛乳乳製品課、農林水産技術会議事務局総務課等を歴任して
平成20 年3月 農林水産省退職。平成27年1月より現職
※本稿は、令和2年3月に寄稿されたものです。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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