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【REPORT】日本とオランダの架け橋に 〜オランダの酪農家の妻として〜

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最終更新日:2021年10月6日

地図
 オランダは、EU最大の乳製品輸出国として知られています。今回は、EUの生産者が、新型コロナウイルス感染症の影響が長引く中、どのように向き合っているのか、オランダで酪農経営を営むチプケ・ニューランド(Tjipke Nieuwland)、亜輝・ニューランドご夫妻をご紹介します。
 ニューランド夫妻の牧場(写真1)は、オランダ北部の酪農が盛んなフリースラント州にあり、1976年にチプケ氏の両親が30haの土地で、経産牛(母牛)70頭から始めました。現在は、経産牛を約170頭、育成牛(離乳から初回受胎までの牛)・子牛を約90頭飼養し、農地は95ha(うち飼料用トウモロコシ18ha)で、牧草は100%自給しています(写真2)。経産牛1頭当たりの平均年間乳量は1万103kg(日本の平均は8607kg)で、年間1600トンの生乳を飲用向けに出荷しています。
図
トウモロコシ

魅力的な酪農経営の実現に向けて

 新型コロナウイルス感染症の拡大による需要の落ち込みから、2020年3月以降は乳価が下落して収支は厳しい状況になりました。しかし、このような状況にあっても、チプケ氏は「この試練は、優れた酪農家がチャレンジするチャンスである」と言います。オランダの酪農においても後継者問題は昔からの課題です。チプケ氏は「次の世代に酪農経営が魅力的なものであることを伝えるため、この試練を乗り越える必要がある」と言い、今後は、良質な飼料生産や飼養管理の改善などによる乳質の向上、1頭当たりの乳量のさらなる増加などを目指すとしています。

一国一城の主である酪農家

 オランダは、EUの中でも環境規制が厳しいことで知られています(注1)。同牧場も過去には規模拡大を考えていましたが、政府の環境規制によって諦めた経緯があります。しかし、1頭1頭の牛を大切に飼養し、1頭当たりの乳量を伸ばすことで安定した酪農経営を築いてきました(写真3)。チプケ氏は酪農経営の魅力を「自分ですべてをやれるところ」と話します。オランダの酪農の強さは、酪農家の強い経営力にあります。経営力がないと淘汰されてしまいます。次世代への継承においても、親から子への継承だけではなく、経営能力のある者が継承し、そうでない場合は廃業するという半ばサバイバルマッチの中にあります。これは一見、苛酷に見えますが、チプケ氏の言うように裁量権が自分にあるということで「やりがい」を感じることができます。また、通常のビジネスと違って、生き物や自然を相手にすることは、困難であるとともに格別の喜びもあるようです。自然と向き合い、牛を大切に扱いながら優良な牛に育てていくことにプロの職人技がみられます。

(注1)オランダ酪農乳業事情について、詳細はこちらをご覧ください。
   オランダの酪農乳業の現状と持続可能性(サステナビリティ)への取り組み〜E‌U最大の乳製品輸出国の動向〜(畜産の情報2020年1月号)
牛

日本とオランダの架け橋

 妻の亜輝氏は、チプケ氏の酪農経営を手伝う傍ら、日本からの酪農視察のコーディネートや通訳をしています。さらにオランダの酪農に関する情報を日本の酪農専門誌に定期的に寄稿しています。オランダの酪農家の実態を当事者として、オランダの文化や慣習を織り交ぜながら発信する彼女の記事を楽しみにしている日本の読者も数多くいます。2019年12月には帯広で開催された「酪農女性サミット」(注2)にオランダからスピーカーとして登壇し、酪農家の妻としての立ち位置から見つけた自分の生き方を話されました。亜輝氏の目指す酪農家像は、「地に足の着いた酪農ウーマン」とのこと。今後は、日本とオンラインでつなぐバーチャル農場視察を検討しているそうです。彼女もチプケ氏に負けずとチャレンジ精神が旺盛です。オランダの酪農家の妻だからこそできる彼女の取り組みは、まさに日本とオランダの架け橋となっています。

(注2)酪農女性サミットについては、こちらもご覧ください。
   【トップインタビュー】農業における女性の活躍推進〜地域を牽引するリーダーとなる酪農経営を目指して〜(2021年3月号)
(調査情報部 国際調査グループ)
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196