【寄稿】豊かな食卓に貢献する全国食肉学校
最終更新日:2022年8月5日
公益社団法人全国食肉学校 学校長 小原 和仁
1.設立の経緯と概要
わが国では1970年代の高度経済成長期、食肉の需要を賄うため、北海道や東北、九州など畜産が盛んな地方に数多くの「産地食肉センター」が建設され、そこで働く食肉技能者の養成が急務となりました。全国食肉学校(写真1)は、畜産振興事業団(現在のalic)とJA全農などの農協グループが出資して1973年11月に設立された、食肉技能者を養成するための「職業能力開発校」です(表)。
「産学協同による実践教育」と全寮制による「心豊かな人間形成」を教育理念に掲げ、これまで2,600名を超える卒業生を全国の食肉業界に輩出してきました。
写真1 全国食肉学校校舎外観 (群馬県佐波郡玉村町)
2.本校の学生たち
本校は、産地食肉センターや食肉企業の幹部候補生、精肉店・六次産業化を目指す牛豚生産者・飲食業などの後継者、そしてハム・ソーセージ販売や焼肉店の起業を志す若者などが修学します。
志を同じくした若者(年齢制限はありません)が24時間寝食を共にし、切磋琢磨しながら食肉の知識と技術を学んでいます。“同じ釜の飯を食った者”同士、自然と強固な仲間意識が芽生え、卒業式では別れを惜しんで涙する学生が多くみられます。卒業後は公私ともに生涯の友人となります。
3.家畜が食肉になるまでに欠かせない技能者の養成
図 生体から精肉まで形を変える食肉
そもそも牛や豚などの家畜を食肉にするまでには、多くの技能者たちの手が欠かせません。牛を例にとると、まず、いのちをいただき、解体していきます。皮や内臓などを除去して「枝肉」とよばれる骨のついた状態の大きな塊にします。次に骨や脂肪を除去して部位ごとに分け、「部分肉」と呼ばれる中くらいの塊にします。さらに筋肉毎に分割、スジ引きをし、口に入るサイズに切ったり薄くスライスしたりして「精肉」にします(図)。
どの工程も高度な衛生管理と技術が必要となります。そして、彼ら技能者たちがいなければ、私たちの食卓に食肉が提供されることはないのです。本校では、食肉加工の各工程を実習します(写真2)。
4.食肉の薄切り技術と和食文化を世界へ
写真3 シドニーでの和牛セミナー
写真4 世界のシェフ向けセミナー
私たちが慣れ親しんでいるすき焼きやしゃぶしゃぶなどの和食。その材料としての2mmぐらいに薄くスライスされた冷蔵の精肉が、実は世界でも類を見ない薄さだとご存じですか?例えばアメリカでは、スライスといえば2〜3cmの分厚いステーキ肉です。わが国の食肉の薄切り文化は世界の中でも独特で、そのためには特別な技術が必要となります。
本校は、日本畜産物輸出促進協議会の依頼を受けて、世界各国に講師を派遣し、和食文化の普及と和牛輸出拡大の側面支援をしています(写真3)。また、世界各国から和牛を扱う一流レストランのシェフたちが本校を訪れて研修を受けています(写真4)。このように世界の人々がわが国独特の食肉処理加工技術を学ぶ機会を求めているのです。
5.時代の要請に応えて
厚生労働省は昨今、人材開発支援助成金や生産性向上支援訓練など、企業で働く人の職業能力開発を支援するとともに、若年技能者人材育成支援等事業(ものづくりマイスター制度)によって若年技能者への技能の継承や後継者の育成を図っています。また、外国人技能実習制度や特定技能など、外国人材活用の支援にも力を入れています。
また、農林水産省は、食肉を輸出重点品目と位置づけ、その輸出拡大を積極的に推進しています。
これらの国の施策について、本校は従来もその多くに関わってきましたが、今後も引き続き応えていきたいと考えています。
2023年11月に本校は創立50周年を迎えます。次の100周年に向けて、これまで食肉業界とは縁のなかった一般の若者たちにも本校の門を叩いてほしいと願っています。若者たちが本校で真剣にお肉と向き合い、卒業後は日本と世界の豊かな食卓に貢献する食肉産業人として活躍することを期待しています。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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