【REPORT】デンマークの養豚産業 〜キーワードは“持続可能性”〜
最終更新日:2023年2月6日
EUは、環境への配慮などの意識が高く、社会的、経済的、環境的に持続可能な農業や林業を推進しています。今回は、農用地の割合が大きく、持続可能性の取り組みが進んでいる国の一つであるデンマークの養豚産業について紹介します。
北欧に位置するデンマーク
養豚の概況
デンマークは、国土面積は日本の9分の1ほどでありながら、農用地は日本の6割の規模に当たります。また、農業産出額の3分の2が畜産によるもので、そのうち養豚が2分の1を占め、養豚はとても重要な産業です。
デンマークの豚肉生産量は、EUの中でスペイン、ドイツ、フランス、ポーランドに次ぐ5番目で格段に多いとは言えません(2021年)。しかし、子豚の輸出頭数が突出して多く、子豚を含めた生体豚の輸出頭数は、同国で飼養された豚の9割に及びます。
持続可能性の向上に関する取り組み
豚運搬用トラック(提供:デニッシュクラウン)
換気装置や輸送中でも水分補給ができるトラックを
使用するなど、動物福祉が考慮されています。
デンマークでは、動物福祉の推進のほか、豚への抗生物質の使用量、窒素排出量、食肉処理・加工場のエネルギー、水の使用量の削減にも積極的に取り組まれています。同国の消費者は有機食品を購入する頻度が高く、持続可能性についての意識が高いこと、また生産者がそれをよく理解していること、さらに政府の強い後押しが、生産者の負担にもなる持続可能性への取り組みを進める原動力になっているのではと関係者は話します。
持続可能性に配慮する生産者
デンマーク最大の食肉・加工企業で処理頭数ベースで7割強を占めるデニッシュクラウン社のGo-gris農場では、持続可能性に配慮した生産に取り組んでいます。この農場は、母豚1000頭を飼養し、年間3万2000頭を出荷しています。また、970haの農地で豚の餌となる穀物なども栽培しています。
同農場では、豚が快適に過ごせるよう、1頭ごとに豚房の中で方向転換できるだけのスペースを確保しています。また、子豚には、母豚の豚房の一角に保温できるスペースを設けたり、母乳不足で低栄養にならないよう乳母役の母豚や人工乳も利用したりするなど、ストレスを感じさせないよう努めています。
また、建築中の新しい豚舎では、プラスチック製の“すのこ床”などを導入し、排せつ物処理や温室効果ガスの排出削減、動物福祉など、より持続可能性に配慮した環境を整備する予定です。もちろん、豚舎の更新には費用がかかりますが、農場主は「次の30年間を生き残るための未来に対する投資」と前向きです。同時に、こういった戦略を立てることは必須であるものの、その前提には国全体としての指針が定まっていることが重要と感じているとも述べています。
デンマークの養豚産業関係者には、EUの他の豚肉生産国に比べ、人件費などのコスト面で不利な条件がある中、持続可能性の取り組みといった強みについても一層際立たせることで、主要な輸出国としての地位を高めようとする強い意志が感じられます。
参考:畜産の情報2022年11月号「デンマーク養豚産業による持続可能性への取り組み」
(調査情報部)
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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