【寄稿】日本農業遺産・南あわじ市における資源循環型農業
最終更新日:2023年4月5日
南あわじ市 産業建設部 農林振興課
御食国淡路島
淡路島は古代から平安時代まで、皇室・朝廷に海水産物を中心とした御食料(穀類以外の副食物)を貢いだ「贄の貢進国」であり、「御食国」と呼ばれていました。
島故に農地や資源に限りがあり、瀬戸内気候の特徴でもある少雨という厳しい環境にあるにもかかわらず、南あわじ地域が令和の時代においても淡路島たまねぎやレタス、淡路ビーフなど豊富な食材に恵まれ、全国有数の農業地域となっている要因は、優れた農業システムが確立されているからと言えます。
南あわじ地域の日本農業遺産
当地域の農業システムは、令和3年2月に日本農業遺産に認定されました。その特徴は、100年以上続く水稲とたまねぎの二毛作と畜産を組み合わせた生産の循環ですが、その根幹をなすのが、伝統的な独自の水利システムです。
先述のとおり、当地域は雨が少ないため、律令の時代(注1)から開墾と同時にため池などかんがい施設の整備が進みました。特に江戸時代以降の新田開発に伴い高度化が進み、ため池、河川、用水路といった表層水と湧水、深井戸、浅井戸、横井戸を組み合わせるかんがいシステムが構築されました。これらは、田主と呼ばれる組織が管理・運用を担い、現在でも水利ごとに管理し、限られた水源を大切に活用しながら、水田農業を行っています。
この高度な水利システムを基盤として、初夏から秋にかけて稲作を行い、収穫後には同じ農地において秋から春にかけてたまねぎを栽培します。米を収穫した後の稲わらは家畜の飼料として利用し、家畜から生産される牛ふんは堆肥として農地に土壌改良剤として還元します。この農業システムにより、雑草や土壌病害虫を抑制させ、たまねぎの連作が可能となっており、大きな病害もなく100年以上続く農法を実現させました。現在は、淡路島たまねぎという全国ブランドを持つ露地野菜の一大産地にまで成長しています。
(注1)律令国家が存続した、大化改新後の奈良時代を最盛期として10世紀ごろまでの約3世紀。
日本農業遺産
社会や環境に適応しながら何世代にもわたり継承されてきた独自性のある伝統的な農林水産業と、それに密接に関わって育まれた文化、ランドスケープおよびシースケープ、農業生物多様性などが相互に関連して一体となった、わが国において重要な伝統的農林水産業を営む地域(農林水産業システム)であり、農林水産大臣により認定される。令和5年1月現在、24地域が認定。 |
次代の淡路島たまねぎの生産を担う者
淡路島たまねぎの若い担い手
(左から2525 ファーム迫田氏、Top Field 堤氏、at green 田辺氏)
当地域ではたまねぎの他にもはくさいやレタスなどの栽培も盛んです。資源循環による持続可能な農業を継続することで、若い担い手も着実に育っています。
大規模にたまねぎを生産する2525ファームの迫田瞬さん(南あわじ市神代)は、日本一美味しいたまねぎを作るため神戸市から移住し、「蜜玉」という商標を取得したブランドたまねぎを生産しています。
at green合同会社の田辺健さん(同市賀集)は、JAあわじ島のGAP部会立ち上げに尽力し、たまねぎによるGLOBALG.A.P.(注2)の団体認証を取得し、国際基準の生産工程管理を行いながら、差別化されたたまねぎ生産にチャレンジしています。
また、Top Fieldの堤直也さん(同市倭文)は、水稲とたまねぎやレタスを大規模に生産しながら、酪農家らと家畜飼料の生産者団体を結成し、耕畜連携の新しいモデル構築を進めるとともに担い手を増やす取り組みも行っています。
(注2)GAP(農業生産工程管理)認証制度の一つで、運営主体はドイツに本部がある。
南あわじ地域の農業遺産システムを担う者の確保・育成に向けて
当地域の農業システムは、全国的に見ても特殊な農法です。このため、移住者を含めた就農希望者には農業法人などに2〜5年間、雇用就農をして農業の知識や技術、地域とのつながりを深めた後に独立・自営就農というステップを踏んでいただいています。これにより、独立後も農業法人などからのバックアップを受けることができ、定着率も向上しています。
若い就農者が増えていくことで、100年以上続いている当地域の農業システムはこれから先の100年もさらに進化を続けていくと確信しています。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196