【第1線から】かんしょ農家の未来を見据えて かんしょ専業農家の若手経営者 〜鹿児島県鹿屋市 北郷(ほんごう)久幸さん〜
最終更新日:2015年9月2日
鹿児島県大隅半島の中央部に位置する鹿屋市
毎年夏になると、鹿児島県鹿屋市の台地に広がるかんしょ(さつまいも)畑は、ハート形の葉っぱを青々と茂らせます。この一帯で 15 ha という県内有数の規模のかんしょ畑を耕作する農業経営者の北郷久幸さん( 35 )=同市獅子目町=をご紹介します。
◆かんしょ専業農家への道のり
かんしょの栽培を未来に受け継いでいきたいですね
幼いころから両親の農作業を手伝ってきた久幸さんは、早くに農業を志し、農業高校と鹿児島大学農学部で学んだ後、平成 17 年に高校の同窓の縁で妻の由紀子さん( 37 )と結婚。翌年の長女の誕生を機に、父の栄さんから農業経営を全面的に引き継ぎました。
その当時、鹿屋市は葉タバコ栽培が盛んでした。「シラス台地で土地がやせていて、栽培できるのは葉タバコかかんしょぐらいだった」といいます。久幸さんの畑も葉タバコの作付けが大半を占め、かんしょの作付けは全体の3割でしたが、平成 23 年の葉タバコ廃作奨励を受け、全面的にかんしょ栽培に切り替えました。
かんしょの収益は葉タバコの6分の1ほどで、厳しい転換を迫られたものの、久幸さんは「葉タバコ栽培で土壌の消毒を徹底していたおかげで、かんしょの形状を損なう病害虫の発生が抑えられていたので、転作自体はしやすかった。かんしょは、葉タバコと違い選別や乾燥の作業が不要なので、浮いた分の労力を投入して作付け面積の拡大を図り、減収の痛手を克服しようと考えた」と振り返ります。
父の代に始めた2 ha の所有畑に加え、高齢化で耕作を止めた農家の畑の集約をする取り組みにより、 13 ha の借地の畑をも擁する県内有数の大規模かんしょ専業農家へと成長しました。かんしょの品種も増え、現在は、でん粉用として「シロユタカ」(6 ha )と「ダイチノユメ」(1 ha )、焼酎用として「コガネセンガン」(7 ha )、製菓用として「アヤムラサキ」(1 ha )の4品種を作付けしています。
◆でん粉用かんしょと焼酎用かんしょ
鹿児島県は、かんしょの生産量で全国第1位を誇ります。しかし、実は、青果用が県産のかんしょに占める比率はわずかであり、そのほとんどをでん粉用と焼酎用が占めています。久幸さんの畑でも9割超がでん粉用と焼酎用です。
一般に、焼酎用はでん粉用よりも高値で買い取られますが、久幸さんは、焼酎用に偏ることなく、でん粉用も焼酎用とほぼ同じ割合で作付けしています。
「焼酎メーカーと取り引きされる焼酎用は、形状や大きさなどの規格を厳しく問われるので出荷量が安定せず、焼酎の需要次第で価格が上下する。一方、でん粉用は、生産が比較的容易で安定した出荷が見込め、収入も『数量×制度に基づく単価』により計算されるので、所得を見込みやすい。安定した所得が見込めるでん粉用と収益率で勝る焼酎用の一長一短のバランスを考えた作付けが、かんしょ専業農家として安定的な経営を続けていく鍵」と久幸さんは話します。
なお、alicは、「砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律」に基づき、でん粉用かんしょに係る農業所得の確保のため、生産者がでん粉工場に売り渡したでん粉用かんしょについて、「でん粉原料用いも交付金」を交付して支援をしています。
◆新たな取り組みで現状打破を
かんしょは、4月─5月の植え付け期、9月─ 11 月の収穫期が繁忙期です。久幸さんの畑でも、特に多忙な植え付け期には5人の作業員を臨時雇用しています。しかしここ数年、久幸さんは「昔なじみのおばあちゃんたちが 70 歳を超え、一人また一人と来なくなった。新たに募集しても、重労働の割に単価の安い農作業よりも介護などの仕事に人が流れて、なかなか集まらない」と頭を悩ませています。
ネックとなる農作業の負担をいかに軽減するか─。状況を打開するため、久幸さんが積極的に取り組んでいるのが、最新の技術や機械の活用による作業の省力化です。
かんしょの育苗・苗切は、地面にかがんで行わねばならず、高齢の作業員には負担の重い作業です。そこで現在、負担の軽減を図ろうと、腰の高さほどの育苗台を設置して水耕栽培により苗を栽培・採取する「高設水耕育苗栽培」と呼ばれる育苗手法を、鹿児島県経済農業協同組合連合会と共同で試験中です。
また、平成 26 年度からは、「高精度直線作業アシスト装置」の現地試験にも参加しています。この装置をトラクターに取り付けると、カメラ画像の解析によってハンドルを自動操作御できます。操作に不慣れな作業員でも正確に作業ができ、規模拡大も期待されるものです。
「現状を維持するためにも、常に新たな取り組みへの挑戦が必要です」と語る久幸さん。創意工夫により、未来を切り開こうとしています。
腰の高さの育苗台で行う、かんしょの苗の切り取り(採苗)作業
高精度直線作業アシスト装置を取り付けたトラクターでの畝立て作業
◆かんしょ農家の未来に向けて
かんしょの葉の生育を確かめる北郷久幸さん
かんしょ専業農家として 5年目を迎えた久幸さん。作付面積や作付品種の拡大、作業方法の改善などの試行錯誤を重ね、所得を維持してきましたが、「悪天候や病虫害、市場の変動など、コントロール不能な要因で、所得が大きく減少することもある」といいます。
「この先もかんしょを作り続けていくためには、所得が安定して得られることが不可欠です。一定の所得を確実に見込めるでん粉用かんしょは、かんしょ農家の経営の基盤となる作物であり、『でん粉原料用いも交付金』がこれを支えてくれている」と話されました。
久幸さんが育てたかんしょは、もうすぐ収穫を迎え、でん粉工場に出荷されて「かんしょでん粉」へと生まれ変わります。「かんしょでん粉をもっと消費者の皆さんに広く知っていただけたらうれしいですね」緑一面のかんしょ畑の中で、久幸さんは笑顔で語っていました。
(特産業務部)
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