【alicセミナー】 逼迫する世界の食糧需給と日本農業の課題
最終更新日:2012年5月31日
3月21日のalicセミナーに、且糟ケ・食糧問題研究所代表の柴田明夫氏(前丸紅経済研究所代表)を講師としてお招きし、「逼迫する世界の食糧需給と日本農業の課題」をテーマにご講演いただきましたので、その概要を紹介します。
資源の制約とその中の食糧
国内では昨年の東日本大震災に原発事故が重なり、長期的な電力不足懸念をもたらしたが、海外では資源価格の高騰が止まらず、リーマンショック以降、資源価格の均衡点は一段高い水準に変化し、日本経済は資源の供給制約問題に直面している。本日はこのような資源、特に食糧をめぐる状況をお話し、その上で我が国農業については国内資源のフル活用が必要であることを提言したい。
穀物についても資源の一つとして同様の状況である。中国など新興国では、生活水準が向上し人口が増加したことで、食肉需要が増加し、穀物は食糧としてだけでなく飼料向けとしてもその需要が爆発的に増加した。
先進国の経済成長が頭打ちの中で、外資導入による重化学工業化やインフラ整備など「成長の源泉」は先進国から新興国の中国に移ってきているが、食糧など必要な資源は足りない状況をつくっている。
日中韓の食糧輸入競合も
既に中国は世界の大豆貿易量の半分近くを輸入しているが、トウモロコシについても、今は輸入量は数百万トン程度だが、今後の人口増加、食肉需要の増大から、米国農務省は2021年に1800万トンまで拡大すると予想している。今後、日中韓でトウモロコシ、大豆の輸入競合が起こりうる。
なお、冷戦以前の米国は穀物在庫を大量に抱え、食糧不足国への支援物資に充てていたが、冷戦終結後においては市場原理に基づく低在庫政策に切り替えてきた。世界の食糧在庫率が2割前後と言っても、例えばコメやトウモロコシの在庫の半分は中国のものである。
ブラックスワン現象
また、人類が食糧生産の半分を米や小麦、トウモロコシ、ポテト、大豆など特定の作物に依存するようになって、生物の多様性が失われており、様々な病害虫の問題など自然の反逆ともいえる事態が起こっている。
供給面では、温暖化による異常気象、水不足問題があり、その結果、穀物の増産に必要な耕地面積と単収の増加が制限され、供給制約が強まっている。さらに、急激な需要増加と人口増加によって、世界の食糧需給はひっ迫する。
食糧をめぐっては、国家間、バイオ燃料というエネルギー資源と食糧との市場間、農業分野と工業分野間で水と土地の争奪戦という3つの争奪戦が起きている。また、地球の限界を超えて人類の活動が強まっており、「ブラックスワン現象」と呼ばれる「起こるはずもない様々な現象」が起こり始めているのではないか。
日本の農業 ‐資源のフル活用を‐
世界のひっ迫する食糧需給を背景にして日本がこれまで追求してきた価格・品質・供給の「3つの安定」が脅かされており、中国などの需要拡大に「買い負け」が始まっているし、非遺伝子組み換え作物といった日本の贅沢な好みが市場から嫌われはじめている。
供給については、地産地消といった動きもあるが、農業の生産現場と消費の距離が離れてきてしまったので、フードシステムがブラックボックスとなり、これが品質にも影響を与えている。我が国農業の高齢化の進展や耕作放棄地の増加といった問題を抱えているが、以上のような世界の資源をめぐる状況を踏まえれば、一刻も早く食糧不足を前提として、特に、飼料米を含む水田のフル活用を図るよう政策転換が必要である。
基本は国内資源(耕地、水、人材)を遊ばせないことである。コメの生産調整を廃止して、拡大再生産を図りながら、米の国家備蓄を厚くする。また、日本農業の柔軟性と多様性を確保し、いざという時の「溜め」を作るために、多様な人材の参入を促すことが必要である。画一的農業・農政から脱却し、「適地適策」への転換を提言する。
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農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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