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【レポート】EUの地理的表示制度

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最終更新日:2017年7月5日

GI

 但馬牛や神戸ビーフ、江戸崎かぼちゃに市田柿、これらが売られている時に、赤い日輪に富士山マークのシール(図1)が貼られているのをみたことはありませんか。このシールには「日本地理的表示 GI」と記載されており、平成27年6月からスタートした地理的表示保護制度において、その生産・製造方法、品質について国のお墨付きが得られた印です。地理的表示保護制度とは、名称から当該産品の産地が特定でき、産品の品質などの特性がその産地と結びついていることを特定できる地理的表示を保護することによって、生産者と消費者の利益を守る制度です。そして、この日本版地理的表示保護制度は、既にこの制度が利用・普及されているEUの地理的表示制度を参考のひとつとしています。
 そこで、今回、EUの地理的表示(Geographical Indication /GI)制度の概要と、実際に同制度により保護されている事例として
イタリアのチンタセネーゼ豚肉を紹介します。

2つの基準があるEUのGI制度

グラフ

 日本でもおなじみのフランスの「シャンパン」やイタリアの「プロシュート・ディ・パルマ(パルマハム)」も、EUのGI制度により保護をされている産品です。EUのスーパーマーケットをのぞくと、GI制度のロゴマークが入った製品をよくみかけます。現在EUでは、1500以上の農林水産物・食品が、GI制度により地域特有の伝統的生産方法や生産地の特性によって高い品質や評価を獲得している知的財産として保護されています。このEUのGI制度には、原産地呼称保護(PDO)、地理的表示保護(PGI)、の2つがあり、認定基準がそれぞれ異なります(表)
 GIの認定を受けるためには、EU域内の生産者団体などは各加盟国の担当局、EU域外の生産者団体などは直接または自国の担当局を経由して欧州委員会に申請しなければなりません。欧州委員会が要件に整合していると判断すると認定を得られることとなり、EU官報に公示されます。
 近年では、GIの不正使用や模造が世界的に増えているため、EUはGI保護の強化を積極的に進めており、カナダやベトナムとの自由貿易協定(FTA)にもGIの規定が盛り込まれています。

表

イタリアのチンタセネーゼ豚肉(PDO)

地図

豚

 チンタセネーゼ豚肉は、胴体に白い帯(チンタ)のある黒豚で、トスカーナ州のシエナ県(“セネーゼ”とは、シエナ県を意味します。)を中心に飼養されているチンタセネーゼ豚から生産される豚肉で、14年の長い歳月をかけ、何度かの申請と却下を経ながら、2014年にPDOに認定されました。
 チンタセネーゼ豚は、古代から存在する品種とされ、一時は絶滅の危機に瀕しましたが、2000年にチンタセネーゼ豚保護協会の前身であるチントトスカーノ豚保護協会が設立され、その保護に尽力したことや地元大学の研究などにより飼養戸数・頭数が回復しました。チンタセネーゼ豚の要件には、原産地の指定や最低4カ月間の放牧期間を設けるなどの飼育方法、飼料の種類、と畜の月齢の基準などが含まれています。チンタセネーゼ豚の飼育期間は通常(7カ月)より長い約2年間です。精肉として消費される他、EU域内外で高い評価を得ているトスカーナ伝統のさまざまなサラミや生ハムとして加工されています。チンタセネーゼ豚肉は、郷土料理に不可欠なものとして地元政府などによるプロモーションも行われており、地元レストランがメニューにPDOの名称を記載すると人気が高まり、店の看板メニューとして使用することも多いようです。実際に枝肉価格も通常の豚肉よりも2倍以上での取引になっています。

日本のGI制度もさらなる期待

 EUの主要畜産国では、GI制度で保護された食肉は、いずれも一般の食肉より高値で取引され、生産者の収益向上に貢献しています。GI制度には、原産地の伝統や文化、地理に深く根付いた製品を保護し、地域社会に文化的・経済的な価値を創出し、かつ消費者に信頼できる情報を伝達できるといった利点もあります。また、場合によっては行政や関係団体の支援を受けやすくなっています。
 EUのGI制度には、日本の農林水産物・食品を登録することもできますが、その場合、日本の地理的表示保護制度に登録されていることが条件になります。このため、EUへ輸出する農林水産物・食品の呼称をEU域内で保護するためには、まずは日本の同制度に登録する必要があります。
 GI制度は、国内よりも海外のマーケットを視野に入れた時に、その効果がいっそう発揮されると考えられます。平成27年から日本でも始まった地理的表示保護制度を活用し、日本の農林水産物・食品が海外市場を開拓していくことが期待されています。
(調査情報部 国際調査グループ)
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