【alicセミナー】「豪州の酪農乳業事情」「NZの酪農乳業事情 〜低乳価への対応〜 」
最終更新日:2017年7月5日
南半球・オセアニアに位置するオーストラリアとニュージーランドは、共に放牧を主体とする酪農経営が盛んな国です。人口が少なく、国内市場が大きくないことから、同国内で製造された全粉乳やバターなどの乳製品の多くは輸出に向けられています。そのため、オーストラリアは世界第4位、ニュージーランドは世界第1位の乳製品輸出国で、日本も両国から多くの乳製品を輸入しています。このため、両国の酪農家に支払われる乳価は、乳製品の国家貿易で管理されている日本と異なり、国際乳製品価格に大きく影響を受けるという特徴があります。2014年半ば以降、中国の需要が減退したことから、国際相場が下落し、その結果乳価が引き下げられ、両国の酪農家の経営は厳しくなりました。
このような両国の酪農経営の状況について、alicでは、昨年9月と12月に現地調査を実施し、4月27日(木)のalicセミナーにおいて、調査情報部 大塚健太郎がオーストラリアの、同部 竹谷亮佑および畜産需給部乳製品課 小田垣諭司がニュージーランドの酪農乳業事情について、調査結果を報告しましたので、その概要を紹介します。
生乳生産量の大幅な減少を見せたオーストラリア
オーストラリアでは、人口増加と1人当たりの牛乳消費量増加に伴い、牛乳・乳製品の国内消費量は増加傾向です。日常の食事の中において、チーズやバターなどを利用することも多く、カフェなどでも「フラットホワイト」と呼ばれる「牛乳入りコーヒー」はよく飲まれており、1人当たりの牛乳の消費量は、日本の約4倍にもなります。国内消費量の増加に伴い、15年前までは生乳生産量の5割以上は輸出向けに仕向けられていましたが、5年ほど前からは4割を割るようになり国内向けが徐々に増えてきています。
また、酪農家の経営に着目すると、放牧中心ではありますが、乳牛1頭当たりから絞られる生乳の量を増やすため、濃厚飼料(たんぱく質や炭水化物、脂肪などの栄養素を多く含んだ餌)を与える酪農家も増えてきました。補助的に与える場合もあれば、割合として濃厚飼料の方が多い経営も増えています。このような状況の中、乳製品の国際相場下落に伴う酪農家への乳価の下落は、酪農家の生産意欲低迷につながりました。酪農家は、コストの掛かる濃厚飼料の給与量を減らしたり、乳牛を売ったりすることで収入減を補おうとして、2016/17年度の生乳生産量は大幅に減る結果となりました。
しかし、最近では、国際的な乳製品需要の増加と主要乳製品輸出国における生乳生産量の減少により乳製品の国際価格が上昇し始めました。これにより、オーストラリア国内の乳業メーカーでも酪農家への乳価を上げ始め、今後生乳生産量は増加していくものと見通されています。
乳価下落が顕著だったニュージーランド
ニュージーランドもオーストラリアと同じく酪農大国です。生乳の生産量は、日本の3倍、オーストラリアの2倍にもなります。一方で、人口は日本やオーストラリアよりも圧倒的に少ないため、生産された生乳の9割以上が輸出用乳製品に仕向けられており、オーストラリアよりもさらに国際相場の影響を大きく受けることとなります。そのため、2014年半ばに国際相場が下落した際は、ニュージーランドの酪農家への乳価はピーク時の半分ほどまで引き下げられ、酪農家の収支は悪化しました。そのため、オーストラリアと同じように、補助的に与えていた濃厚飼料の量を減らしたり、乳牛を売ったりしながらコスト削減を図り、それでも経営が厳しい場合は、離農してしまう酪農家も出てきました。一方、乳業メーカーでも、集乳量の減少に伴い、従来の原料乳製品製造に代わって、付加価値の高い消費者向け乳製品の製造を増やすなどの対応をとっています。また、集乳シェアの8割以上を占めるフォンテラ社は、酪農家を組合員とする協同組合でもあることから、金融や経営面で酪農家を間接的に支援しています。
2016年以降、国際相場は上昇に転じており、オーストラリア同様、乳価が上昇し、酪農家の経営も回復していくものと見込まれます。
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