ホーム > 消費者コーナー > 広報誌 > 【alicセミナー】「インド酪農の概要と世界の牛乳乳製品需給に与える影響」「アルゼンチン酪農乳業の現状と今後の見通し」
最終更新日:2018年1月10日
alic調査情報部では、最新の農畜産物の需給状況などを把握するため、海外調査を実施しています。10月24日(火)に、同部 三原 亙から、世界一の生乳生産・消費国であるインドの酪農の概要と世界の牛乳乳製品需給に与える影響について、同じく佐藤宏樹から、良好な放牧環境や豊富な飼料穀物生産を背景に、長年乳製品の国際市場で優位性があるといわれているアルゼンチン酪農乳業の現状と今後の見通しについて、調査結果の報告を行いましたので、その概要を紹介します。
インドは、世界一の生乳生産・消費国(※EUを1つとカウントした場合はEUに次ぐ世界第2位)であるにもかかわらず、生産額と比較すると乳製品輸出がごくわずかで、輸入はさらに少ない、つまりほぼ牛乳・乳製品を自給自足している状況です。しかし、今後人口の増大、経済拡大が進んだ時、この自給構造が保たれるか否かは、世界の牛乳乳製品需給に与える影響も大きく、関心のあるところです。
インドでの生乳生産の現況は、零細な経営によって成り立っています。ほとんどの酪農経営において、牛は作物の不作時の保険としての役割として飼われており、酪農はもっぱら副業となっています。インド農業農家福祉省の統計によると、平均的な農家では、成牛を2〜3頭飼っており、そのうち搾乳中の牛が1頭程度います。また、飼われている牛には背中にコブのあるインドの在来種やホルスタインなどの外来種、およびその交雑種、水牛などがいますが、高温な気候、不足している飼料の影響もあり、いずれも泌乳能力が低い傾向にあります。
一方、流通に目を向けると、生産された生乳の45%は、自家消費や近隣住民へ直接販売され、55%が酪農協や民間乳業メーカー、零細卸売業者を通じて、消費者へ販売されています。しかし、インド食品安全庁の調査で、集荷される生乳の7割に異物混入があるという報告があるなど、安全性については懸念されるところです。
以上のように、生産性も低く、流通面でも課題が多いインドの酪農、牛乳・乳製品の状況ではありますが、その生産は“伸びしろが大きい”ことを表しています。また、最近日本でも一部話題になった“ギー”と呼ばれるバターオイルに代表されるように、作られている乳製品は多様で、インド以外の国で作っていない製品がほとんどです。インド政府は、需要の増大に応じて、生産拡大する方針を掲げており、当面の間は自給できると考えられます。
ラプラタ川流域に広がる肥沃な大草原地帯(パンパ)が主な生乳生産地域であるアルゼンチンは、生乳生産量が世界第9位(※EUを1つとカウントした場合)、乳製品の輸出では世界第5位(いずれも2016年時点)となっています。1戸あたりの平均飼養頭数は、152頭と日本の約2倍の規模です。
しかし、2015年まで安定的に成長してきた生乳生産量は、2016年に前年比12.5%減と、かなり大きく減少しました。その背景には、主要生産地域で洪水によりインフラが大きく影響を受けた地域があったこと、餌となるトウモロコシの輸出が堅調で、国内需給がひっ迫したことにより、国内トウモロコシ価格が上がり、生産コストが増えたこと、農家の廃業が進んだことなどがあります。
現政権は、2015年の政権交代後、大豆以外の輸出税の撤廃や大幅な通貨切り下げ、輸出登録制度の簡素化により、輸出振興を進めている他、情報収集と分析、その公開により情報の透明化を図っています。その結果、2017年10月の中間選挙では現政権への国民の支持が示されました。
アルゼンチンはこのような状況にあるので、2016年の生乳生産の落ち込みからの回復、生産コストの削減などの課題の解決をどうしていくか、注目されています。