【alicセミナー「生産割当廃止を迎えたEUの砂糖産業の動向」「政策変更が進むタイの砂糖産業の動向」
最終更新日:2018年5月9日
日本は、国産の砂糖だけでは国内の需要をまかなえないため、海外からも輸入しています。そのため、海外の砂糖生産地の動向に注視が必要です。alic調査情報部では、最新の農畜産物の需給状況などを把握するため、海外調査を実施しており、今回は世界第3位の砂糖生産地域であるEUの砂糖産業の動向と日本も多くの粗糖(砂糖の原料)を輸入しているタイの動向について調査し、その結果について3 月14日( 水) のalicセミナーで報告をしましたので、その概要を紹介します。
EUは、砂糖生産・輸出
EUの砂糖産業の動向については、調査情報部佐々木由花から報告を行いました。
EUは、世界第3位の砂糖生産地域(2016/17年度)です。また、ヨーロッパと聞くとケーキやクッキーを連想される方も多いと思いますが、砂糖の消費量は世界第2位、輸入量は世界第6位であり、砂糖の需給では世界に大きな影響を与える地域です。
EUでは、主にてん菜を原料として砂糖を生産しています。長年各加盟国に砂糖の生産量が割り当てられる生産割当制度が採られていたため、各国はその割当数量に基づきてん菜および砂糖を生産することで、EU域内の生産調整と供給管理が行われてきました。しかし、2013年に国際競争力の強化を目的に、この制度の2017年9月末の廃止が決定され、併せて輸出制限も撤廃されたことにより、近年EUの砂糖生産国では、その影響が出始めています。
EUの砂糖生産は、シュガーベルトといわれる北海、バルト海沿岸のフランス、ドイツ、ポーランド、イギリス、オランダなどに集中しており、この5カ国でEU全体の約4分の3を占めています。生産割当廃止により、この5カ国は積極的に増産したため、EUの砂糖生産の中長期的な需給見通しでは、かなりの増加が見込まれています。一方で、関連の業界内では、糖類摂取と健康に関する問題が議論されるなどしており、域内砂糖の消費量の増加は見込めないという意見もあります。そのため、今後は砂糖の輸入量は大幅に減少する一方、輸出量は大幅に増加すると見込まれています。輸出増を想定し、シュガーベルトに位置するベルギーのアントワープ港などでは、多額の資金を投入し、トラックなどの搬入容量や設備の拡大、コンベアの増設、倉庫の保管量の増強などを行う会社も見られます。
現在、変革期にあるといえるEUの砂糖産業の動向に、引き続き注視が必要です。
タイの砂糖産業、注目される
タイの砂糖産業の動向については、調査情報部(現 総務部総務課付) 丸吉裕子から報告を行いました。
タイは、世界第4位の砂糖の生産国(※EUを1地域とカウントした場合)であり、ブラジルに次ぐ世界第2位の砂糖輸出国でもあります。日本もタイから多くの粗糖を輸入しています。
タイでは、サトウキビを原料として砂糖を生産しています。そのサトウキビは、中部、北部および東北部の3地域で広く栽培されており、東北部が収穫面積で全体の45%となっています。
サトウキビの2017/18年度の生産量は、適度な降雨に恵まれたことや病害虫被害が減少したことにより、増加が見込まれています。そのため、砂糖の生産量も増加が見込まれ、近年、砂糖の輸出量は、600万〜700万tで推移していましたが、生産量の増加を背景に、2017年、2018年は共に10%以上の増加が見込まれています。粗糖は、インドネシアと日本が主要輸出先です。しかし、2015年の日豪EPA発効を契機に日本はオーストラリアからの輸入割合を増やしたことによって、タイ産の輸入量が減少しました。また、インドネシアをはじめ、同じアジア圏の国でもタイとオーストラリアとの輸出競争が予想されています。
このような中、2016年にタイの一部の政策がWTO協定に違反しているとして、ブラジル政府から提訴されたことを契機に、砂糖販売の自由化などの政策変更が進展しています。自由化が進み、砂糖価格が下落した場合、生産効率の低い小規模工場の淘汰が起こり得るなど政策変更の影響を心配する声が上がる一方、高品質製品の販売が拡大することにより、市場が活性化するとの見方も出ています。タイのサトウキビ生産および砂糖産業は、今転換期を迎えており、この結果次第では、日本の砂糖需給にも影響が出てくることも考えられ、その動向が注目されます
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