日本全国で発生する家畜のふん尿(排せつ物)は、1年間で約8100万トンにも上ります(表1)。
畜産経営においては、こうした家畜排せつ物を適切に処理することで、水質汚濁や悪臭などの環境面での対策を行うとともに、地球温暖化防止に努めています。
他方、家畜排せつ物は、利用価値の高い貴重なバイオマス(生物由来資源)(注1)です。排せつ物の有効利用の一つとして、堆肥化があります。家畜のふん尿などを発酵させて、田畑などの肥料として還元すると、土壌の有機物や肥料成分を増やし、微生物を増加させて土を豊かにしてくれます。このような土の田畑で作られた作物は収量、品質ともに向上します。また、春先の地温を上げて作物の生育を助ける効果があります。最近では、散布しやすさを考慮したペレット堆肥の流通も進んでいます(写真1)。
さらに、地域の実情に応じ、家畜排せつ物を発酵させて発電や熱利用する高度利用施設が整備されてきており、メタン発酵(注2)施設が最も多くなっています(写真2、表2)。家畜排せつ物を再生可能エネルギーとして利用することにより、温室効果ガス削減への貢献が可能となり、地球環境にやさしいエネルギーの普及につながることが期待されています。
(注1)「バイオ」(生物資源)と「マス」(量)を合わせた造語で、再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものと定義されます。バイオマスには、家畜排せつ物などの廃棄物系バイオマス、稲わら、もみ殻などの未利用バイオマス、サトウキビやトウモロコシなどの資源作物があります。
(注2)家畜排せつ物を無酸素の状態(嫌気状態)で温めることで微生物が有機物を分解し、バイオガスを発生させる方法。
参考文献:農林水産省 広報誌「aff」2021年12月号